ディスクリートGPU(dGPU)、いわゆるグラフィックボードを搭載したPCを使っていると、「CPU内蔵GPU(iGPU)は無効化した方が良い」という話を聞いたことがあるかもしれません。私が自身のPCで試した経験から言うと、この説は半分正しく、半分は注意が必要なものです。特定の状況下ではパフォーマンスの向上が見込める一方で、安易に無効化するとかえってPCの便利な機能を失うことにもなりかねません。
この記事では、CPU内蔵GPUを無効化することで得られるメリットと、知っておくべきデメリットや注意点を徹底的に解説します。あなたのPC環境にとって本当に無効化が必要なのか、この記事を読んで最適な判断を下してください。
CPU内蔵GPU(iGPU)とは?その役割を理解する
CPU内蔵GPUを無効化するかどうかを判断する前に、そもそもiGPUがどのようなもので、ディスクリートGPU(dGPU)とどう違うのかを正確に理解しておく必要があります。両者の根本的な違いを知ることが、最適な選択への第一歩です。
CPUに統合されたグラフィックス機能|iGPUの基本
iGPU(Integrated Graphics Processing Unit)とは、その名の通りCPUと同じチップの中に組み込まれたグラフィックス処理機能のことです。これにより、別途グラフィックボードを追加しなくても、モニターに画面を映し出すことができます。
私が思うに、現代のiGPUは単なる画面表示装置ではありません。技術の進化は目覚ましく、Intelの「Iris Xe Graphics」やAMDの「Radeon Graphics」といった高性能なiGPUは、軽めのゲームや高解像度の動画再生もこなせるほどの実力を持っています。システムのメインメモリ(RAM)を共有して動作するため、省電力でコストが低いのが大きな特徴です。
専用のグラフィックボード|dGPUの仕組み
dGPU(Discrete Graphics Processing Unit)は、NVIDIAのGeForceやAMDのRadeonといったブランドで知られる、独立したグラフィックボードのことです。専用の高速なビデオメモリ(VRAM)を持ち、iGPUとは比較にならないほど高い処理性能を誇ります。
高解像度での本格的なゲーミングや、動画編集、3Dレンダリングといった重い作業には、このdGPUのパワーが不可欠です。その分、消費電力や発熱が大きく、価格も高価になります。iGPUとdGPUは、性能とコスト、消費電力のトレードオフの関係にあると言えるでしょう。
CPU内蔵GPUを無効化するメリット
では、本題であるCPU内蔵GPUを無効化するメリットについて解説します。私が考える主なメリットは、理論上のパフォーマンス向上と、ごくわずかな消費電力の削減です。
パフォーマンスの向上は本当か?|dGPUへのリソース集中
iGPUを無効化する最大の目的は、PCのリソースをdGPUに集中させ、パフォーマンスを最大限に引き出すことです。iGPUはシステムのメインメモリを一部利用するため、これを無効化すれば、その分のメモリ帯域が解放され、すべてdGPUが使えるようになるという理屈です。
しかし、私が実際に試した限り、現代のPCアーキテクチャでは、その性能向上は体感できるほど大きくはありません。よほどメモリ帯域がシビアな状況でもない限り、多くのゲームやアプリケーションでは、誤差の範囲に収まることがほとんどです。
消費電力と発熱の抑制|限定的な効果
iGPUを無効化すれば、そのチップが動作しなくなるため、待機時の消費電力や発熱がわずかに減少します。これもメリットの一つと言えるでしょう。
ただし、これも効果は非常に限定的です。最近のPCは電力管理機能が優秀で、iGPUが使われていないときは自動的に低電力状態になるため、無効化による恩恵は微々たるものです。デスクトップPCであれば、ほとんど気にする必要はないレベルだと断言します。
無効化の前に知るべきデメリットと注意点
メリットが限定的である一方で、CPU内蔵GPUの無効化には見過ごせないデメリットや注意点が存在します。私が特に重要だと考えている点を3つ挙げます。これらを知らずに無効化すると、後で後悔することになるかもしれません。
トラブルシューティングの切り札を失う
これは最も重要なデメリットです。dGPUに何らかのトラブルが発生した際、iGPUは命綱になります。例えば、dGPUのドライバがクラッシュして画面が真っ暗になったり、物理的に故障してしまったりした場合でも、iGPUがあればモニターに画面を出力し、問題の診断や復旧作業ができます。
私がPCを自作する友人によく話すのですが、iGPUを無効化するということは、この重要なバックアップ手段を自ら手放すことに他なりません。特にPCの安定性に不安がある場合や、原因不明の不具合に備えたいのであれば、iGPUは絶対に有効にしておくべきです。
特定のアプリケーションで性能が低下する可能性|Intel Quick Sync Video
意外に思われるかもしれませんが、iGPUを無効化することで、かえって性能が低下するケースがあります。その代表例が、IntelのCPUに搭載されている「Quick Sync Video」という機能です。
これは動画のエンコード(変換・書き出し)やデコード(再生)を高速に処理するための専用回路で、多くの動画編集ソフト(Adobe Premiere ProやDaVinci Resolveなど)がこの機能に対応しています。これらのソフトは、動画の再生処理をiGPUに任せ、エフェクトなどの重い処理をdGPUに分担させることで、全体の作業を高速化しています。私が動画編集をする際には、この連携機能の恩恵を大いに受けています。iGPUを無効にするとこの連携が使えなくなり、動画の書き出し時間が長くなるなど、生産性が著しく低下する可能性があります。
ノートPCではバッテリー駆動時間が短くなることも
多くのdGPU搭載ノートPCには、NVIDIA Optimus Technologyのようなハイブリッド・グラフィックス技術が採用されています。これは、Webブラウジングなどの軽い作業中は消費電力の少ないiGPUを使用し、ゲームなどの重い処理が始まると自動でdGPUに切り替えることで、バッテリー駆動時間を延ばすための賢い仕組みです。
もしノートPCでiGPUを無効化してしまうと、常にdGPUが動作し続けることになります。これにより、バッテリーの消費が激しくなり、外出先で使える時間が大幅に短くなってしまうでしょう。ノートPCユーザーにとっては、致命的なデメリットと言えます。
CPU内蔵GPUの無効化方法|BIOS/UEFIでの設定
ここまでのメリット・デメリットを理解した上で、それでも無効化を試したいという方向けに、具体的な設定方法を解説します。作業はPCの根幹に関わる設定を変更するため、慎重に行ってください。
BIOS/UEFIへのアクセス方法
iGPUの有効・無効を切り替える設定は、BIOS(またはUEFI)画面で行います。BIOSにアクセスするには、PCの電源を入れた直後、メーカーロゴが表示されている間に特定のキーを連打します。
一般的には「Delete」キーや「F2」キーが使われることが多いですが、マザーボードやPCメーカーによって異なる場合があります。お使いのPCのマニュアルで確認するのが最も確実です。
メーカー | 一般的なBIOSアクセスキー |
ASUS | Del, F2 |
GIGABYTE | Del |
MSI | Del |
ASRock | Del, F2 |
Dell | F2, F12 |
HP | F10, Esc |
Lenovo | F1, F2, Enter |
設定項目の探し方と注意点
BIOS画面に入ったら、iGPUに関する設定項目を探します。項目名はマザーボードによって異なりますが、以下のような名称が一般的です。
- Integrated Graphics
- iGPU Multi-Monitor
- Internal Graphics
- Onboard Graphics
この設定を「Disabled(無効)」に変更し、設定を保存して再起動すれば作業は完了です。
注意事項
設定を変更する際は、必ずdGPUからモニターにケーブルが接続されていることを確認してください。iGPUを無効化した状態でiGPUのポートに接続しても、画面は映りません。万が一、設定を誤って画面が全く映らなくなった場合は、マザーボードのCMOSをクリアすることで、BIOS設定を初期状態に戻す必要があります。
まとめ
私が考える結論として、ほとんどのユーザーにとってCPU内蔵GPUを無効化するメリットはほとんどなく、むしろデメリットの方が大きいと言えます。特に、動画編集を行う方や、万が一のPCトラブルに備えたい方にとっては、iGPUは有効にしておくべき重要な機能です。
dGPUの性能を1%でも引き上げたいストイックなゲーマーや、特殊なベンチマークを測定するような限定的な状況を除いては、デフォルト設定のまま、つまりiGPUを有効にした状態で使用することを強く推奨します。この記事が、あなたのPC環境を最適化するための一助となれば幸いです。