PCゲーマーにとって、モニター接続端子であるHDMIとDisplayPortの選択は、ゲーム体験に直結する重要な問題です。どちらも映像を映す点では同じですが、その性能や機能には大きな違いがあります。
この違いを知らないと、せっかくの高性能なPCやモニターの能力を最大限に引き出せないかもしれません。私がこの記事で、PCゲーマーの視点から両者の決定的な違いを徹底的に解説します。
HDMIとDisplayPort|根本的な違いとは?
両者の違いを理解する鍵は、それぞれの「生まれ」にあります。規格が作られた目的が根本的に異なるのです。
DisplayPort|PCのために生まれた規格
DisplayPortは、PCでの利用を最優先に設計されたインターフェースです。PC業界が中心となって策定したため、より高いデータ転送能力(帯域幅)や、PC特有の機能(マルチモニターなど)に強みを持っています。
ゲーミングPCや高性能グラフィックカードの能力を最大限に引き出すことを目的としています。
HDMI|家電とエンタメのための規格
HDMIは、テレビやBlu-rayプレーヤーといった家電製品(AV機器)のために生まれました。映像と音声を1本のケーブルで手軽に接続し、リビングルームでのエンターテイメント体験をシンプルにすることが目的です。
そのため、操作の簡便性(CEC)やオーディオ機能(eARC)が充実しています。
一目でわかる性能比較表
PCゲーマーが注目すべきポイントで、両者の最新規格(DisplayPort 2.1とHDMI 2.1)を比較します。
| 機能 | DisplayPort 2.1 (UHBR20) | HDMI 2.1 |
| 最大実効帯域幅 | 77.37 Gbps | 42.6 Gbps |
| PCでのVRR | G-Sync / FreeSync (主流) | FreeSync / HDMI VRR (対応製品が限定的) |
| マルチモニター | MST (デイジーチェーン) 対応 | 非対応 (1対1接続のみ) |
| 主な用途 | PCゲーミング、プロフェッショナル用途 | 家庭用ゲーム機、AV機器 |
| オーディオ機能 | 標準的な音声伝送 | eARC (高音質オーディオ) 対応 |
| 機器連携 | 非対応 | CEC (リモコン連携) 対応 |
PCゲーマーがDisplayPortを選ぶべき理由
結論から言えば、PCでゲームをプレイするならDisplayPortを選ぶべきです。私がそう断言する理由は、ゲームの勝敗を左右する「リフレッシュレート」と「同期技術」に圧倒的な優位性があるからです。
圧倒的な帯域幅と高リフレッシュレート対応
帯域幅とは、データを送る「道路の広さ」のようなものです。この道路が広いほど、より高解像度で高リフレッシュレート(1秒間のコマ数)の映像を送れます。
DisplayPort 2.1の驚異的なスペック
DisplayPort 2.1(UHBR20)は、最大77.37 Gbpsという驚異的な帯域幅を持ちます。これにより、4K解像度で240Hz、あるいは8K解像度で60Hzといった、現行の最高峰ゲーミングモニターの性能すらも余裕で引き出します。
将来的により高性能なモニターが登場しても、DisplayPortなら対応し続けます。
HDMI 2.1の限界
HDMI 2.1も42.6 Gbpsと広帯域ですが、DisplayPort 2.1には及びません。4K解像度では144Hzあたりが実用的な上限となり、PCゲーミングの最前線で求められるスペック(例|4K/240Hz)には対応しきれません。
ティアリングを防ぐVRR技術
VRR(可変リフレッシュレート)は、ゲームのフレームレートとモニターのリフレッシュレートを同期させ、画面のズレ(ティアリング)やカクつき(スタッタリング)を防ぐ技術です。
G-SyncとFreeSyncの歴史
このVRR技術は、NVIDIAの「G-Sync」とAMDの「FreeSync」としてPCゲーミングの世界で発展しました。これらは元々、DisplayPort接続を前提に開発された技術です。
そのため、PC用ゲーミングモニターのほとんどは、DisplayPort接続でこれらの機能を最大限に活用できるよう設計されています。
PCにおけるVRRの優位性
HDMI 2.1にもVRR機能は搭載されていますが、これは主に家庭用ゲーム機向けです。PC環境において、特にG-Syncの全機能を利用する場合、DisplayPort接続が推奨されるケースが依然として多いです。
私が安定したVRR環境を求めるなら、迷わずDisplayPortを選択します。
複数のモニターを操る「MST」機能
DisplayPortには「Multi-Stream Transport (MST)」という独自機能があります。
デイジーチェーン接続の利便性
MSTを利用すると、PCの1つのDisplayPort端子から、複数のモニターを数珠つなぎ(デイジーチェーン)にして、それぞれ独立した画面として映し出せます。
ゲームをしながら攻略サイトを見る、配信ソフトを操作するなど、マルチモニター環境を構築する際に非常にスマートな配線が実現します。これはHDMIには無い、PC中心設計ならではの大きな利点です。
HDMIが活躍する場面とは?
では、HDMIはPCゲーマーにとって不要なのでしょうか。いいえ、特定の場面ではHDMIが必須となります。
家庭用ゲーム機(PS5/Xbox)はHDMI一択
PlayStation 5やXbox Series X/Sといった家庭用ゲーム機には、DisplayPort端子が搭載されていません。これらのゲーム機で4K/120HzやVRRといった性能を引き出すためには、HDMI 2.1接続が必須です。
PCと家庭用ゲーム機の両方を同じモニターで使う場合、どちらの入力端子も重要になります。
リビングでのAV体験
HDMIは家電の王様です。もしPCをリビングの大型テレビに接続して、映画や動画コンテンツを楽しみたいなら、HDMIの機能が光ります。
eARC|高音質オーディオの伝送
eARC(Enhanced Audio Return Channel)は、テレビを経由してサウンドバーやAVアンプに、Dolby Atmosなどの高音質なオブジェクトベースオーディオを送る機能です。
DisplayPortにも音声伝送機能はありますが、eARCのような高度なオーディオ機能は持っていません。
CEC|リモコン一つで簡単操作
CEC(Consumer Electronics Control)は、接続された機器を一つのリモコンで操作する連携機能です。例えば、PCの電源を入れるとテレビが自動でつき、入力が切り替わるといった連動が働きます。
この手軽さは、リビングエンターテイメントにおいてHDMIが持つ大きな強みです。
ケーブルと変換アダプタの落とし穴
どちらの規格を選ぶにせよ、接続する「ケーブル」や「アダプタ」には注意が必要です。せっかく高性能な機器を持っていても、ケーブルが原因で性能が発揮されないことがよくあります。
コネクタ形状とロック機構の違い
HDMIコネクタは摩擦力だけで接続されていますが、DisplayPortコネクタの多くには「ラッチ」と呼ばれる物理的なロック機構がついています。
このラッチにより、ケーブルに不意にテンションがかかっても抜けにくく、接続の信頼性が高まります。私がPC周りの配線で安心感を重視するなら、このロック機構は非常に魅力的です。
「認証ケーブル」を使わないと性能が出ない
特にHDMI 2.1やDisplayPort 2.1の性能(高帯域幅)を引き出すには、その規格に対応した「認証ケーブル」が必須です。
HDMI 2.1ならば「Ultra High Speed」、DisplayPort 2.1(80Gbps)ならば「DP80」といった認証マークがあるケーブルを選びます。古いケーブルを使い回すと、画面が映らない、リフレッシュレートが上がらないといったトラブルの原因になります。
変換アダプタは「方向」に注意
「PC側がDisplayPortで、モニター側がHDMI」というケースはよくあります。この場合、安価な「パッシブアダプタ」で変換できます。
しかし、「PC側がHDMIで、モニター側がDisplayPort」という逆方向の変換は、非常に厄介です。HDMIはDisplayPortの信号を出せないため、信号を能動的に変換する高価な「アクティブアダプタ」が別途必要になります。
アダプタ類は一方向通行であることが多いため、購入時は変換の「方向」を強く意識する必要があります。
まとめ|PCゲーマーならDisplayPortを選ぼう
DisplayPortとHDMIは、どちらかが優れているというより、得意分野が異なる規格です。
リビングで家庭用ゲーム機やAV機器を接続するなら、eARCやCEC機能を備えたHDMIが最適です。
しかし、あなたがPCで競技性の高いゲームをプレイし、1Hzでも高いリフレッシュレートと安定した同期技術(VRR)を求めるなら、選択肢は一つです。私が推奨するのは、PCゲーミングのために設計されたDisplayPortです。
お持ちのグラフィックカードとゲーミングモニターが持つ本来の性能を解放し、ライバルに差をつけるために、接続端子にもこだわってみてください。

